「ゴルフをしない私」から「ゴルフをする未来の私」へ

10年前まで月1ゴルファーだった私も、今では月1~2回練習場に行くだけの「ゴルフをしない人」です。経済的な事情で一旦ゴルフから身を引きつつ、それでも遠い未来で再開するのを夢見ているオヤジは、今の日本に大勢いると思われます。そんなオヤジの、遠い未来に再開される自身のゴルファー像を夢見るブログを作ろうと思います。

「ゴルフの基礎理論」~身体制御の基礎知識~(12)

グリーン上でカップまで残り30センチ足らずのパットと、残り1メートル程度のパットとでは、技術的な難易度に大きな隔たりがある。


もちろん残り30センチ足らずのパットはプロアマ問わず、ノンプレッシャーで入れることができるから何も問題は無い。ところが残り1メートルほどのパットについてはプロでさえ入れ損なう可能性があるから、このふたつの印象は大きく違ってしまうのだ。


この「1メートル足らずの短いパット」だけがどうしても入らなくなるというゴルファー特有の「イップス」と呼ばれる奇病がある。


イップスが何故奇病なのかというと、その症状に悩まされえているゴルファーは(30センチ足らずの短いパットなら勿論入るが)1メートル程度の短いパットだけがどうしても入らないという症状に悩むのである。それより距離が伸びて2~3メートル程になると逆に問題なく入れるイメージも湧くし、さらに距離を長くしたアプローチのロングパットなどの寄せも問題なくスムーズに打てるというのだ。


この「1メートルのパットだけが入らなくなる」という奇病イップスの原因はかなり古くから研究されていて、鋭い洞察力のあるゴルファーから「カップまで残り1メートルのパットは、パットを打つゴルファーの視野の中にカップが映ってしまうことが原因になるのだ。」という部分まで指摘されている。


パース理論的に考えても、この指摘はかなり的を得ていると言えるだろう。


(これは既に書いたことだが)パース理論的にゴルフの方向性を研究すると、究極的に「ゴルファーはボールの周辺30センチ以内の範囲内で方向を認識しなければならない」という奇妙な結論に達する。


この「30センチ以内」という有効範囲の設定はあくまでゴルフクラブの中間的な長さの7番アイアンでの考え方である。長さの短いウェッジやパターなどはこの有効範囲の幅がもっと小さくなる。例えばパターなら、その範囲は「ボールから25センチ以内」と、他のクラブに比べて最も狭い範囲に限定されてしまうのだが、これとは逆に最も長さの長いドライバーや3番ウッドなどは、その有効範囲の大きさが35センチ以上と広めにイメージしても問題はなく、もっと長尺のドライバーになると40センチ近くまで広げても構わないかもしれない。


つまりパース理論で扱うゴルフの方向感覚の有効範囲である「30センチ幅」という尺は絶対的なものではなく、ポイントはゴルファーの視座における「視野角」に制限を設けるという発想なのである。


例えば、机の上で10センチ程度の三角定規を扱う場合、パース理論による空間の歪みを考慮に入れる必要が無いと言えるだろう。この狭い範囲を「パース理論による空間の歪みの影響を受けない範囲」であると仮定して計算を進めると、次のようになる。


机の上で10センチほどの三角定規を扱う場合、それを扱う人の目から三角定規までの距離は60センチ程度だから、その10センチ幅で作られる三角形の「視野角」は3.75度と割り出される。この「視野角4度弱」という狭い視野の中でだけ、絶対的な方向感覚を意識しても良いという結果になる訳だ。




「10センチ足らずの狭い有効範囲」は文字通り机上の論である。あくまで机の上に限定される話だから、ゴルファーが7番アイアンで打つ場合は、ゴルファーの目からボールまでの距離として換算し直す必要があることになる。その場合の視野角4度弱の有効範囲の幅は大体30センチ以内と算出される寸法である。


これがパターならゴルファーの目とボールとの距離が少しだけ短くなるから、有効範囲も狭くなって「ボールの周辺25センチ以内」となる。つまり30センチ程度のパットなら、パース的な空間の歪みを完全に無視して打ったとしても、まず問題にならないというゴルファーの経験則とも合致する結果になるのだ。


ところがカップまで残り1メートルとなると、パターを構えているゴルファーの視野にカップが映り、どうしても意識してしまう状況となる。


カップとボールまでの距離1メートルを意識しているゴルファーの視野角を計算すると、おそらく45度を大きく超えてしまう数値になる筈だ。


そこまで視野角を広げた場合、パース理論による空間の歪みは無視できない大きなものとなるだろう。


もしその歪みを無視して「絶対的な直線イメージ」によってパットのラインを認識しようとするなら、パースによる空間の歪みによる影響がとてつもなく大きなものになる事は避けがたい。


この影響は、より精密にパットをしようとするプロゴルファーの方が症状が重く、悪影響も強い皮肉な結果に到る可能性が高い(そして、そもそもイメージすらしない適当な素人ゴルファーにイップスが発症しないというのも筋が通る)。


そして距離の長いロングパットやアプローチショットの方が、ボール付近にだけ集中できる分、やりやすくなるという結果とも合致するだろう。


この仮説が正しいかどうかは、次の①~④ような実験をすれば明らかになるだろう。


①ダンボールのような大きな板状のものを用意する。


②イップスの症状に苦しむゴルファーにカップまで1メートルの距離のパットをするように構えてもらう。


③ダンボール板を使ってカップからゴルファーが打とうとするボール付近15センチまで覆い隠してしまう。(これによってゴルファーは、ボールとパター付近にしか意識を集中できなくなる。)


④その状態で1メートルのパットをする。


この実験のポイントは、イップスに苦しむゴルファーが陥っているものと想定される「視野角の広過ぎる方向感覚」というものを食い止め、そのゴルファーにもっと狭い範囲でだけで方向を意識させることにあると言えるだろう。


普通の発想でゴルフにおける方向感覚をより良くしようとするなら、より長い直線をイメージすべきだと考えるだろうし、そのような直線を数多く何本もイメージする方がより方向の精度が高くなるものと思ってしまうのは無理も無い。


だが、そこに落とし穴がある事は既にパース理論で解明されてしまった。


手元の10センチ程度の三角定規を扱うその狭い範囲内でなら、その三角定規の直線とゴルフの方向感覚を完全にリンクさせても、何も問題は無いことも明らかになった。


これと同じように平面を扱う場合でも「手の平サイズ」の小さな範囲でなら何も問題は起きないという考察も可能となる。


実際に片手を伸ばして、手の平で壁を触ってみて欲しい。そこに感じている壁の触感や面の感覚、すなわち「手の平感覚」は人の持つ平面感覚そのものだとも言える。


平面をイメージする場合でも、その小さな「手の平サイズ」の範囲でなら、パース理論的な空間の歪みによる問題を完全に無視できるという考察ができる事になる。


(続く)

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